first impression



そのよん





「そんなところで寝てたら蚊にさされるで〜」
素肌の腕をぴしゃりと叩かれて目が覚めた。
「わっ!」
開いた目のすぐ前に、崎山の顔があって、驚いて大声を上げた。
「何驚いてんねん。オバケちゃうぞ?」
「あ、あんた、何してんだよ!」
「煙草吸いにきたら、おまえがおったんやんけ。ちょっと詰めろよ」
ケツでぐいぐいおれの身体を押して、スペースを確保すると、ちゃっかり隣りにドスンと座り込んだ。
「吸う?」
「煙草はキライだし」
すると、吸おうとして取り出していた煙草を箱に戻してしまった。
「吸いに来たんじゃねえの?」
「せやけど、煙草キライな人の前で堂々と吸うほどデリカシーのない人間ちゃうから」
これはイヤミなのだろうか?
おれにここから出て行けと遠まわしに促しているのだろうか?

車のドアは全開のままだし、おれが反対のドアから出て行こうとしたときだった。
「あいつら、ほんまに辛気臭いと思わん?」
「なに・・・がですか?」
ドキリとしてつい敬語になってしまった。
まさかこいつ・・・全部わかってるのか・・・?

それに、おれのことを邪魔だとは思っていないらしい。
「ごまかさんでもええで?友樹は全部気づいてるんやろ?まあ長い付き合いで気づかんほうがおかしいわな。おれなんて今日だけで気づいてもうたわ」
どうしてだか、あんなに大嫌いだと思っていたヤツに呼び捨てにされても、不思議と嫌悪感がわかなかったのは、何だか残念そうな、弱々しげな口調のせいだろうか?
それ以上に、こいつの考えを聞いてみたくなった。
「あんた・・・崎山さんは優のこと好きだったんですか?」
「好きっちゅうか、かわいいやん、あのコは。顔だけやなくて性格もいいし。自慢やないけどおれかて結構モテるし不自由しいひんけど、なんかこう・・・庇護欲をかりたてる何かを持ってるな、優くんは」
ほんの数時間一緒に過ごしただけで、的確に優の性格を捉える洞察力に驚いた。こりゃ、三上先輩の気持ちもバレバレ・・・だわな。
「さっき、優をどっかに連れてったでしょ?」
「ああ、コクってみてん」
「コ、コクった〜?」
まるで他人事のようにさらっと言われてこっちが驚いた。
なんという手の早さ!でも・・・全部気付いてるって言ってたよな?

「OKしてくれたら儲けもんやと思ったけどな、予想通り玉砕してもうた」
「予想・・・通り?」
「ほんまになぁ。三上が辛気臭いからこんなことになるねん。両思いやのにな。時間もったいないっちゅうねん!そう思わんか?」
「崎山さん・・・やっぱ知ってたんだ」
何だかうれしかった。ずっとふたりの気持ちを知っているのはおれだけで、これでも結構苦しかったんだ。
ひとりでヒミツをかかえこむのは、かなり重いものがあったから、仲間ができたようでウキウキした。

「どういういきさつでそうなったかとか詳しいことは知らへんし、本人に言う気がないんやったら聞こうとも思わんけど、好き同士やったらくっつくのが当たり前やのにな」
こいつは、過去のことを知らないらしい。先輩がはるかさんと付き合ってたことも、亡くなってしまったことも。
でもおれから話すつもりはない。きっと先輩がきちんと話をするに違いないから。
こいつのことを本当の友人だと思っているのなら。

「おれなんて、ず〜っとあれを見てるんですよ?いい加減じれったくなりますよ!」
「友樹も賛成派?」
「だって好きなんだから仕方ないでしょ?」
「でもオトコ同士やで?」
「関係ないっしょ?恋愛に異性も同性も関係ないっ」
きっぱり言い切ると、崎山さんは大声で笑った。
「おまえもわかりやすい性格やなぁ!おれ、おまえのこと気に入った!これからはふたりで協力していこ!ええよな?」
強引に肩を組まれて、何だか胸が高鳴った。
「い、いいですよ?おれ・・・ふたりには絶対幸せになってもらいたいんです!」
「交渉成立ってとこやな!ほな、これからもいろいろイベント考えるさかい、友樹も参加せえよ?」
この日、おれたちは同士となった。
優と先輩と幸せを願う、最高の協力者に・・・・・・










「おまえ、おれのこと、最初気に食わんかったやろ?」
隣りで気を使うこともなくゴロンと寝そべる崎山がクスリと笑う。
「だって、すっげえ優にデレデレなのわかったし。おれに挑発的だったし」
「おれは、おまえのこと気に入っとったで?最初から」
「ほ、ほんとに?」
意外な発言に声が上ずった。
「優くんを守ろうという必死さが伝わってきておもろかったわ。気ぃ強そうやからおれのタイプ違うと思ったんやけどなぁ・・・」
こいつは、こういうことを平気で言う。まっ、そんなこと言われたっておれは堪えないんだけどね。
「おれだって、まさかこうなるとな思ってなかったっつうの!」
「おさまるところにおさまったってところ・・・やな?」
口は悪いけど、本当は優しい人。
思い起こせば、あのバーベキューの時だって全部の段取りを整えて、みんなたいくつしないようにと気を配っていた。
おれが煙草がキライだと言ったのをずっと覚えていて、今でもおれの前では絶対に吸ったりしない。
ちょっと不満があるといえば・・・案外オク手だってことか?
すっかりラブラブ状態の優と先輩には遅れをとっているけれど、これがおれたちのペースなのかも知れないけれど。
「友樹、明日優くん家で鍋しよ鍋っ!」
「おっしゃ!黙って押しかけようぜ?そうでもしないと先輩に断られるから」
ふたりっきりの夜を邪魔しにいくのが、最近のおれたちのデートだ。
これって・・・少しばかりやっかみが入っているのかも・・・・・・
きっと先輩は思っているに違いない。
「なんてヤなやつらなんだろう」って・・・



おしまい




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